請負と委任
業務委託契約というものを実務上よくみかけます。
業務委託契約とは,他人の労務を利用する法律形式の一つのことをいい,多くの利用がなされていますが,業務委託契約を定義した法律はありません。
私的自治の原則から契約書の条項が優先されますが,契約書に記載がないときは民法の規定が補充的に適用されますが,その際,請負,委任であるのかをめぐり法的効果に違いがあることからトラブルになることがあります。
業務委託契約は,典型契約である請負ないし準委任の両方の性質を持つことが多いとされています。また,委任や準委任でも,事務内容の定型性が高まってくると結果を観念することができるようになり請負に似てきます。例えば、委任といわれている原稿の作成、設計、鑑定、翻訳、調査、データ処理などです。これらを委託の内容とした場合は,請負とも委任ともいえるような性格を持つことになり,いずれかと判断されることにより,予想外のリスクを負うことが考えられます。
契約書を作成する場合は、請負をベースとするのか委任をベースとするのかを決めておく必要があるかと思います。例えば,コンサルティング契約では,通常は,委託者が何らかの事業を行っており,コンサルタントがコンサルをすることになりますが委任契約といえます。すなわち、経営コンサルタントに講師を依頼したり、経営指導を受ける契約や派遣技術者による技術指導などの契約等によるノウハウの提供契約は委任契約と解されています。
もっとも,契約内容によっては,前述のとおり委任も事務内容の定型性が高まり結果を観念できるようになってきています。そして,一定の成果をあげること,すなわち仕事の完成が前提とされている場合は請負契約と解される余地があります。報告書,マニュアルの作成などの典型作業が伴う場合,その作成が「仕事の完成」と観念することができる余地があるのです。
請負契約の場合は,仕事の完成までは施主に解除権があります。損害は賠償してもらえますが,簡単に施主から解除されてしまうという点がポイントです。ところが,請負の場合は請負人は,契約通り履行しなければならず債務不履行など法定解除事由がないと解除できません。つまり,請負契約は,施主に有利な契約といえるかもしれません。
これに対して委任契約の場合は,いつでも契約を解除できますので,契約書に期間の定めがあったとしても,突然契約を解除されるリスクを覚悟しないといけません。受任者の利益をも目的とする契約の場合は中途解約はできませんが,報酬を支払う特約があるだけでは受任者の利益をも目的とするものとはいえないと解されています。また,損害賠償も「不利な時期」だけ認められます。裁判例では,不利な時期とは,事務処理自体の関連において,相手方に不利な時期があることをいい,この損害は時期が不当であったことから生じた損害をいうものとされています。つまり,1ヶ月程度間をおかれてしまいますと,「不利な時期」とはいえず,損害賠償も請求することができない可能性があります。
ですから,委任契約と解される余地があるものについては,違約金の支払義務の条項をいれておくなどの対応が必要になります。
東京地判平成15年1月31日は,清掃会社とビル管理会社のビル清掃契約についての契約期間が1年間とされていました。そして,期間満了2ヶ月前に異議がなければ1年延長されるものとされていました。そして,期間が延長されたところ,そのわずか1ヶ月後に契約の解除を求めてきたのである。したがって,清掃契約が請負か委任かが争われたのです。
この点,請負と考えると,解除は自由であるものの損害賠償義務が生じますから,少なくとも10ヶ月分の逸失利益は賠償の範囲になると考えるべきです。原告は,契約期間内に約定の清掃をすることを仕事の完成とする請負契約であると主張していました。
しかし,裁判例は,継続的な性質に着目して準委任契約と解され,1年の延長規定も解除権の放棄と解することはできないとして,放棄の趣旨を認めるのは困難であるとしました。委任契約とされてしまうと,解除は本質であるので本質的な権利を放棄したというためには何らかの特別な事情が必要である,としました。委任契約の場合は損害賠償についても,相手方に不利な時期でなければ損害賠償義務は発生しないことになりますから,委任と解された場合,一方的解除については,契約書に違約金条項を盛り込んでおこないとなかなか法的救済を得るのは難しそうです。
受任者の利益をも目的としている場合,委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものと解されない事情があるときでも解除が認められ,受任者がこれによって不利益を被る場合,損害の賠償が認められる。もっとも,①受益者の利益を目的としていること,②解除されたこと,③受任者が不利益を被ることという要件を満たすのは,ハードルが高いように思います。賠償を認めたものとして,東京高判平成元年10月16日判タ713号187頁がある。