建物明渡訴訟を予防するためには・・・
建物明渡を予防するには、普通借家契約ではなく定期借家契約としておくということである。
本来、生活の本拠地を奪われないというものが、単なる経済活動の保護にまで制度趣旨が拡大されてしまった以上、普通借家契約の場合は期間満了時に明渡しを実現するか否かの見通しが困難であるのに対して、定期借家であれば、正当事由も求められず信頼関係の破壊もいらず「円満」に出て行ってもらえることができる。
しかし、そうした弁護士のアドバイスに貸主は、あまり耳を傾けないと思われる。つまり、適正賃料、適正使用をしてくれれば、賃貸借というのは無個性の「不労所得」であり、他方、入居する借主の側も、数百万円単位の内装費をかけていたりする場合は、2年で「さようなら」ということでは、別物件にいってしまう、つまり貸すのが難しいという状況になってしまうのである。
もちろん出て行って欲しいテナントに貸し増しをさせない、といった兵糧攻め作戦などもあるかもしれないが、個人的には、都心部だからといって、「借主の都合」で退去されるケースの方が多く、貸主保護のための店舗・オフィスの定期借家契約の割合は、それほど高まっていないように思われる。条件が悪い分、賃料を率直に下げるしかないが、「貸主の都合」からみて、別にこじれなければ出て行ってもらわなくてもよいわけで、それは入ってもらわないと分からないという継続的契約の質的問題もあるだろう。
これに対して、住宅については、所有者が転勤を機会に賃貸する場合などは、具体的に返還の必要性があるし、内装費もかからないので、定期借家契約が用いられるといえる。
しかし、定期借家という概念を知らないというケースもあり、普通借家契約で貸してしまう例が多く契約期間が終われば返してもらえると思っていたということである。
もっとも、家賃の改定がしやすいというメリットもある。普通借家の場合は契約が続けば、賃料増額は調停経由の訴訟が必要であり、専ら立証責任は貸主にある。そして、増額が認められると経済的合理性の見地から借主が退去してしまったということもある。もちろん適正賃料であれば、また入居する希望者は現れるとは思われる。しかし、空白期間が生じるのは否定できないだろう。