敷引特約と消費者契約法10条
基本的な論点ながら,長年確定的なアドバイスができないでいた敷引特約と消費者契約法10条との関係。
敷引き特約というのは、建物の賃貸借契約において敷金に賃借人から賃貸人に差し引かれたお金のうち一定額を控除して賃貸人が収受してしまい、建物明け渡しごに残額を賃借人に返還するという特約です。主に京都など関西地方の商習慣と呼ばれていますが,事業のうえでは保証金が償却されるというのは珍しいことではありません。
判決(最判平成23年3月23日)では、消費者契約である居住者用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額、礼金等の額等の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額にすぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなどの特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる、としました。
そして,賃料の2倍から3.5倍の敷引額にとどまっているので,本件敷引額の額が高額に過ぎるとはいえず有効とされました。賃料の3.5倍程度の敷引であれば消費者契約法10条に違反すると評価されないとした最判平成23年7月12日も現れたことから,一応の敷引特約に関する判決は決着をみたように思います。もっとも,3.5倍なら問題ないというわけではなく想定したよりも短期に終了した場合には,信義則上の問題が生じる余地は今後とも残ることになります。
田原裁判官は補足意見の中で,通常損耗を賃借人に負担させようとする場合は、賃料として収受するべきであって、賃料以外の敷引金等に求めるのは相当ではないとの見解について反対の意見を述べています。田原裁判官は,これは賃貸営業の政策判断の問題であるとしています。