企業情報、安易な警察への提供に警鐘をならしたい
2019年2月4日付の朝日新聞は、特にTポイントカードをあげて、捜査機関からの照会があれば裁判所の令状がなくても会員の個人情報を提供していることが明らかになったとして、特集記事と社説を掲載している。
問題があるのはポイントカードだけではなく、PASMOやスイカなども同じであるし、携帯電話の位置情報システムの提供もあるのではないかとの不信が広がっている。たしかに、企業が一定のルールに基づき匿名化しビッグデータとして利用する分には問題があるが、個人のプライバシーにかかわる事柄について他人に知られる違和感に加えて、任意捜査で被疑者の承諾が原則であるのに承諾がないことが明確な状態での提供に、不安感や危惧感を抱く人も多いのではないか。
一例を挙げれば、中国では携帯やキャッシュレス決済により、その人の信用をポイント化し、公共サービスの利用に反映させているという話しを聴く。そういうビッグブラザーのような監視社会をよしとするのであれば、それはそれでいいのだろう。しかし、警察が捜査を開始しているのは任意であることが多く、自分が疑いの対象になっているかどうかも分からない。日本の弁護人制度には、逮捕罪名などをすぐに知る権利としての弁護権すら確立されていない。
最も問題なのは、警察比例原則に反した過剰な捜査もあるのではないか。非開示証拠などを取り寄せてみると、およそ裁判では使用しない証拠も多い。その中には、道路交通法関係で、カルテをすべて捜査事項関係照会書で照会しているものもあった。しかし、本当に道路交通法関係の捜査で過去のカルテが全部いるのか、憲法上の権利である通信の秘密、人身の自由、行動の自由、プライバシーの自由のほかに、「ほおってもらう権利」というものも保障されているはずだ。こうしたセンシティブ情報が多くの企業・団体が令状なしの提供に応じていることも問題である。
そもそも、朝日新聞が社説で指摘するとおり、17年、捜査対象者の自動車に無断でGPSをとりつけることは、過剰に情報を収集することになるので、強制処分になることを明らかにして違法としていることを踏まえた警察の運用の見直しや法整備が行き届いていない現状は遺憾に思わざるを得ない。
そもそも、警察は、道路交通法違反の捜査ですべてのカルテを捜査事項関係照会書で照会したり、照会の内容が誤導や誘導を前提とする照会が来ていると医師に相談されたこともある。
しかしながら、私は、金科玉条のように令状を要求すれば良いというものでもないと思う。なぜなら、令状は、新人の判事補や簡易裁判所の法曹資格がない裁判官の「雑務」だからである。沖縄で書記官が令状を作成していたことが発覚したように、その実際は私も取集時代、見学したことがあるが、単に記録をちらっとみたら、書記官が記録を事務室に持っていき判子を押すのである。つまりめくらばんですらないのである。
つまり、令状が必要だ、という形式論も超えて、継続的、網羅的な把握はプライバシーや人格権が毀損される恐れが極めて高い強制処分という前提に、法整備を進めてほしい。
例えば、覚せい剤、児童ポルノなどの軽犯罪において、このようなTポイントと捜査のような違法捜査の論点が出やすいのは、実は、家庭内など公には実行されないため捜査に無理が生じやすいため、こうした違和感を持たれる捜査手法をとらざるを得ないのである。しかし、調べてみる方は気持ちがいいかもしれないが、そもそも、愛知県警の逮捕者一覧のリストをみても軽犯罪がずらりと並んでいる。結局、ドライブレコーダーがワイドショーに毎日流れるように、犯罪になるか微妙な不道徳な行為でも犯罪にしたい「めくじら」社会とこうした無理ないし違和感を持たれる捜査手法は表裏一体にある。市民社会としては、企業にプライバシー保護の観点の要請に応えた解決を求めたい。
また、グーグルや無料通信アプリのラインは捜査機関の照会に応じる基準や実際の件数を公表しているが、他方、弁護士会照会など公法上の請求は無視している。なぜ、軽犯罪の摘発のため警察には無条件に協力し、重大さもあり得る民事事件の照会には応じないのか、この点、通信の秘密を盾にとるのであれば首尾一貫した説明も企業責任の一つではないだろうか。