育児休業明けの賃金引き下げを伴う担務変更はできますか。
女性が労働力として社会的に認知されることが増えて産休について問題となることが多かったのですが、最近は産休ではなく育児休業の問題がクローズアップされているようです。
この事件はコナミデジタルエンタテイメント事件といわれています。産前産後休業及び育児休業を取得した女性が復職をしたところ、給与等級が引き下げられて業務も担当が変更されました。
これが,権利の濫用にあたるかの評価が問題となりました。判決自体は、成果報酬の査定に問題があるものとして不法行為の慰藉料30万円を認めていますが、この点は取り上げません。
ここでのポイントは(1)担当業務の変更については濫用性が否定されたこと、(2)賃下げについて、役割報酬部分の金額は職務等級に連動して定まるので降格が不合理でない限り賃下げも不合理ではないとの論理です。
コナミデジタルエンタテイメントで指摘されている点で注目されるのは、育休明けの場合については、育児介護法10条の不利益取扱の禁止、同22条の復帰の努力義務が引かれています。産休・育児休暇明けの場合については、これらの規定に言及した判例は珍しいと思います。今後は、こうした規定との関係も留意する必要があります。
コナミデジタルエンタテイメント判決では、育児介護法22条の要請についていえば原職あるいは原職相当職への復帰が含まれていないと説示されています。
この点、育児休暇をとっている間も、使用者としては労働遂行を確保する必要があるために人事権を行使して後任者を決めてしまいます。ですから,女性が育児休暇が明けて復帰を望んでもポストが空いていないというケースは多くの会社で経験するところではないでしょうか。したがって、育児介護法の趣旨及び同法22条からは原職復帰義務を法令上認めることはできないと解されます。
例えば、看護師長が育休復帰後に師長に復帰できず結果役職手当がもらえなくなるわけですから賃金が減額になった例でも人事権の濫用はないものとされています。
本件は,①育休・勤務時間短縮措置を理由とする不利益取扱い禁止規定の拡充等の法改正動向,②近年増加する成果主義ないし役割グレード型賃金制度,年俸制の査定,③企画業務型裁量労働制の解除などといった現代的な複数の論点を包含する事案として耳目を集めている。
注目されるのは、休業が翌年の年俸の大幅な減額と直結する報酬制度のもとでは、女性は長い不利益を覚悟して休業に入る必要が出てくるということになります。ですから,過度に育児休業の取得を抑制する制度設計になっていないかどうかについては慎重に検討する必要があると思います。
最判平成15年12月4日は、賞与支給の出勤要件につき産休・育休を欠勤として取り扱うことは公序良俗違反としていますから,本件では、「査定」の問題として処理されていますが、査定の公平性を担保と制度設計の合理性について慎重にPDCAサイクルで検証する必要があるのではないでしょうか。