退職した従業員の顧客名簿の持ち出し
従業員の退職にまつわるトラブルで比較的多いのが,製品の製造過程についてのマニュアルや顧客名簿の持ち出しです。
不正競争防止法の営業秘密の保護については範囲が狭く、
「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」とされています。
加えて図利加害目的まで要求されるなど,その従業員の不当な意図という内心の立証をしなくてはいけませんので,困難が伴う面があります。
特に,他の会社にも類似のノウハウが存在するものは営業秘密にはなりませんし,顧客名簿の持ち出しも営業秘密ではありません。
名簿を持ち出した場合は窃盗罪で刑事告訴するという方法もありますがデータで盗まれるとなかなか対応が難しい面があります。
そこで,不正競争防止法に頼らずに労働契約による守秘義務を設定しておくことが重要となります。これも包括的すぎても公序良俗違反となり法律上の効果が否定されることもあります。
裁判例では,顧客名簿に関しては,誓約書により期間の定めのない守秘義務を設定したケースでは,秘密・情報の性質・範囲,価値・労働者の退職前の地位に照らして合理性が認められる場合は,公序良俗違反にならないとしています。
この場合は労働契約による守秘義務の設定の有効性が争われることになります。これも裁判例に照らした設定にしておく必要があります。例えば,商品取引所の上場商品の売買を含む会社の従業員が同業他社への移籍に際して顧客情報を無断で持ち出したことにつき,就業規則及び同内容の守秘義務の内容を明確に列挙していることから有効と判断した例があります(アイメックス事件)。