宅建業者が媒介ではなく直接買取の注意点。
先般,宅建業者が媒介ではなく直接買い取りをする場合については,媒介契約では駄目な合理的根拠を示す必要があり,これがない場合は媒介契約にとどめる義務があるとの判決が出されました(福岡高裁平成23年10月17日)。
不動産売買に宅建業者のみなさんが関与している場合、媒介、買い取りが想定されるところではないかと思います。ですから、この判例は結構目が覚めたという方もおられるかもしれません。
ただ,宅建業法や判例では媒介手数料が高額にならないように制限をしてきているという経過があります。逆に,媒介手数料を制限しても買い取りが安い金額で行われキャピタルゲインを得られるということになると媒介手数料に対する規制が無意味になってしまうという趣旨と考えられます。
この判例は,媒介では駄目である合理的根拠を求めています。
もっとも,この判例を読むと「売買代金1500万円の4割差益(600万円)を得ていること」が重視されているようです。
宅建業者としては,契約成立までのスピード感,履行の確実性,安心感などで合理的根拠を基礎付けようとしましたが,600万円のキャピタルゲインを得るための合理的根拠としては認められなかったといえます。
本件のように宅建業者が自分で買い取りをして,そのキャピタルゲインを得た場合についてその当否が問題とされたのは,公刊判例では1件しかありませんでした。
その中で,合理的根拠が必要という新たな視点を示して,その検討の方法の道筋を示していることは宅建業者のみなさんの執務の参考になると思われます。
もっとも,判断の過程は,宅建業者の言い分を,ひとつひとつ論破していくという構成がとられていますので,その判断基準が明確に示されているとはいえないと思われます。
この件では,宅建業者側に約527万円の支払が命じられています。