事業損害について考える。
弁護士になってからというもの、損害論、特に逸失利益について考えることは少なくありません。具体的には,事業者の方が交通事故に遭われてしまって、事業所得者の逸失利益を算定することがあります。具体的には、事業主個人が働いて生み出していた部分の利益が対象となります。これを本人寄与分といい、逸失利益算定の基準は本人寄与分だけと考えられていました。とはいうものの、個人事業主の場合は、課税所得に所定の控除を持ち戻したものを参考にすることも多いと思います。
もっとも、交通事故に遭ってしまって働くことができなくても減価償却費、賃料、保険料、借り入れの返済などの固定費はキャッシュアウトが続くことになります。したがって、固定経費相当額も加算して賠償の対象とすることになる、という理解だったのです。
ところが、最近、とある事例でたとえ話で,分かりやすくいうと原発事故が起きてしまって避難を余儀なくされたときに法人としての営業損害をどのように計算するのか、ということを考える機会がありました。理論的にはあり得るわけですが、会社が交通事故に遭うことはありませんから,今まで考えてみたこともありませんでした。
法人の場合ですが、原則としては本件事故がなければ得られたであろう収益と実際に得られた収益の差額から,実際に出費を免れた費用を控除して得た額が逸失利益になると解されます。分かりやすくいうと、得られたであろう売上から実際の売上を引いて,減少した変動費なども引くというような理解になると考えられます。
休業損害の場合、交通事故の場合だと個人事業主は売上から経費を差し引いた「所得」を保障してもらうという印象が強いわけですが,たしかに従業員の人件費を筆頭に金融機関への融資の返済額、家賃などの固定経費のキャッシュアウトは続くわけですから,売上ベースでの賠償でなければおかしいのです。
問題はいつまで賠償してもらえるかです。交通事故での休業補償の期間で揉めるのと理屈は同じだと思いますが,事業損害となると多額ですからよりシビアな認定になるかもしれません。私が担当させてもらっているケースでもこの点が論点となっています。
この点、最高裁平成21年1月19日判決は、カラオケ店について浸水事故による営業不能を理由に損害賠償を求めたという事案だったのですが、約1年7ヶ月も休業していたということがありました。たしかに浸水ということでしたら、2~3ヶ月で修復工事を行い目途をつけることが可能だと思いますし、1年7ヶ月も休業するのであれば移転を考えるのが現実的ではないかと思います。
最高裁は、営業利益相当の損害が発生するにまかせて、その損害のすべてのついての賠償を加害者に請求することは条理上認められないとしました。いわゆる損害拡大防止義務を認めて賠償額を減額したといえるのではないでしょうか。もっとも、別のビルに移転するというのは商売をしている人であれば、そう簡単に移転したくないというのも人情でしょうが、それでも1年7ヶ月も休業するというのは度を過ぎているということなのでしょうか。2年分を認めた福岡高判昭和58年9月13日もあるところなので、なんともいいにくいところではあります。
しかし、原発事故などの場合、例えば1年7ヶ月経過したら、営業を再開しなさいよ、あるいは移転して営業するのが「条理」でしょうというわけにはいかないようですが、合理的期間には制限されるのではないかと考えられます。