事業損害を考える【再考】

今般、私が関与していたある事件で判決がありました。

 

事業損害が争点となっていましたが、東日本大震災以降、事業損害というのは明示的に意識されているのではないかと考えられます。例えば交通事故ですが、組織としての会社が交通事故に遭うということは考えられません。具体的には役員が事故にあったり、主要な営業マンがという場合に、会社の売り上げ減少を転嫁できるか、という限度での議論は盛んに行われていたように解されるのです。

 

プライバシー保護のため、脚色を加えて別事案としてしますが、ある士業の事務所にクレーンがぶつかってしまい、クレーンのボールによって事業所内が破壊され、従業員も多数負傷したという場合、従業員レベルの問題は交通事故と同じように損害の算定ができるのです。

 

しかし、組織が有機的一体として経済的活動をしているのにそれが止まったという損害をどのように認定するか、という点については、先のコラムの中でも取り上げました。東日本大震災にあたり日弁連の報告書の中で事業損害が取り上げられていたわけです。

 

しかし、士業事務所の場合、そもそも何を損害の基準とするのか、例えば司法書士事務所の場合、依頼を受けても報酬を受けるのは最後であったりします。成功報酬型のコンサルタント事務所の場合、事務所がめちゃくちゃに壊れても、事業遂行のタイミングと入金のタイミングが大きく齟齬がある、つまり支払サイトが長いという問題点があるのです。

 

こうした場合、どのように解するのか、東日本大震災における事業損害においても、先例になるものと考えられる判決と評されるのではないかと考えられます。

 

判決では「製造業者のように一日の稼働能力や予定生産量が比較的明確に定まっているのとは異なり、営業活動が売り上げに直結しているわけではないし、営業活動の成果が入金となって得られるまでには一定の時間を要するという業務の特性」を指摘しました。

 

そして、人員を増やしたばかりで、営業マンが増えれば売り上げが増えそうではあるものの、新人であるということもあり、「売り上げに対する効果は未だ数値化されていない」という特殊事情を指摘しました。

 

たしかに士業事務所で事務員さんを増員したら売り上げがアップするかといえば、すぐには数値化できないように考えられます。

 

そのうえで「民事訴訟法248条を適用し、・・・相当な損害額を認定せざるを得ない」としました。

 

休業期間をどこまで認めるのか、これは東日本大震災ADRでも争点の一つですが、物理的な復旧をもって必ずしも復旧時期と認定することはできないと指摘しています。

 

そして、基本は過去の売り上げを基調として一定の割合を損害として認めています。

 

民事訴訟法248条が適用されただけではなく、いわゆるコンサルタントや士業事務所の組織体に打撃が加えられた場合において、どのような損害算定となるかについてはもちろん、東日本大震災ADRにおける事業損害について、その計算算定につき参考になるものとして紹介した次第です。

ページの先頭へ
menu