特別利害関係人が参加しても頭数が足りていれば適法!

4 本判決

この判決は、ざっくりいうと、特別利害関係人が参加して、多数決が行われたのですが、その場にいる存在感から心理的圧力を受ける可能性も否定することはできないという見解も成り立ち得るところです。したがって、単純に頭数の問題に還元して良いのかな、という印象を持ちます。

最高裁判所第二小法廷は、漁業協同組合の理事会の議決が、当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってされたものであっても、当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは、その効力は否定されるものではないと解するのが相当であると判示し、本件漁協の理事8名から特別の利害関係を有する理事2名を除外した6名の過半数に当たる4名が出席してその全員が賛成してされた本件貸付けに係る理事会の議決は、無効であるとはいえないとして、同議決が無効であることから本件支出負担行為等は町長の裁量権の範囲を逸脱してされたものとして違法であるとした原判決の被告敗訴部分を破棄し、原告が他に主張する本件支出負担行為等の違法事由の有無等について審理を尽くさせるため、上記の部分につき本件を原審に差し戻す旨の判決をした。

原判決は、本件議決に特別の利害関係を有する理事が加わったという瑕疵があることのみを理由として本件支出負担行為等が町長の裁量権の範囲を逸脱したものであると判断しており、原告が本件支出負担行為等が違法であるとして主張する他の事由について審理、判断をしていないことから、本判決は、これらの他の事由についての審理、判断を尽くさせるために本件を原審に差し戻すこととしたものと解される。

5 本判決の判断について
本件は、特別の利害関係を有する理事が加わった漁業協同組合の理事会の議決の効力という論点に関して水産業協同組合法37条2項の解釈が争われた事案であるが、同項の規定は、株式会社の取締役会決議に関する会社法369条2項の規定と同旨のものであり、上記論点に関しては、特別の利害関係を有する取締役が加わった取締役会決議の効力という会社法上の論点において論じられているところと同様に論ずることができるものと考えられる。
この会社法上の論点について、学説においては、上記のような取締役会決議は、常に無効であるとする見解、原則として無効であるが、この瑕疵がなくても決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは有効となるとする見解、特別な利害関係を有する取締役を除いてもなお決議の成立に必要な多数が存在する場合は原則として有効であるが、当該取締役が出席して決議に不当な影響を与えたといった事情がある場合には無効となるとする見解、特別な利害関係を有する取締役を除いてもなお決議の成立に必要な多数が存在するならば決議の効力は妨げられないとする見解などがみられる。
また、判例は、最二判昭和54・2・23民集33巻1号125頁、本誌570号3頁(以下、「昭和54年最判」という)が、中小企業等協同組合法に基づく企業組合の理事会決議に特別の利害関係を有する理事が加わった場合であっても、当然に無効ではなく、その理事の議決を除外してもなお決議の成立に必要な多数が存するときは、決議としての効力を認めて妨げないと解すべきであると判示しているが、特別の利害関係を有する理事が参加した企業組合等の理事会決議に関する規定である当時の中小企業等協同組合法42条は、昭和56年法律第74号による改正前の商法239条5項の規定を準用する旨定めていたところ、同項は、「総会ノ決議ニ付特別ノ利害関係ヲ有スル者ハ議決権ヲ行使スルコトヲ得ズ」と定めるものであり、現行の会社法等の規定とは文言が異なっていることなどから、現行の会社法等の下においても昭和54年最判と同様に解すべきであるかどうかは必ずしも明らかではなかった。
 このような状況のもとで、本判決は、特別の利害関係を有する理事が理事会の議決に加わることができない旨を定める水産業協同組合法37条2項の趣旨が、理事会の議決の公正を図り、漁業協同組合の利益を保護するためであると解されることなどを説示し、昭和54年最判と同様に、特別な利害関係を有する理事を除いてもなお議決の成立に必要な多数が存在するならば議決の効力は妨げられないとする見解を採ったものである。
しかし、やはり、公正さが疎外される特段の事情があるのであれば、無効とするべきように思われ、判旨には賛成することはできません。

本判決は、株式会社の取締役会の決議に関する論点と同様に論ずることができるものであり、特別の利害関係を有する取締役が加わってされた株式会社の取締役会決議の効力についても、本判決と同様の考え方が採られることになると考えられることなどからして、本判決は重要な意義を有するものと考えられるだけに深刻な問題提起です。

(1) 水産業協同組合法37条2項が,漁業協同組合の理事会の議決について特別の利害関係を有する理事が議決に加わることはできない旨を定めているのは,理事会の議決の公正を図り,漁業協同組合の利益を保護するためであると解されるから,漁業協同組合の理事会において,議決について特別の利害関係を有する理事が議決権を行使した場合であっても,その議決権の行使により議決の結果に変動が生ずることがないときは,そのことをもって,議決の効力が失われるものではないというべきである。
そうすると,漁業協同組合の理事会の議決が,当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってされたものであっても,当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは,その効力は否定されるものではないと解するのが相当である(最高裁昭和50年(オ)第326号同54年2月23日第二小法廷判決・民集33巻1号125頁参照)。水産業協同組合法37条2項と同旨の定めであるA漁協定款49条の3第2項についても,同様に解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,本件議決に加わった理事のうち,Bは本件貸付けに係る被害漁業者の経営者であり,同人の子であるCは本件貸付けに係る貸付金を原資としてA漁協から融資を受けた者であるから,いずれも本件議決につき特別の利害関係を有するものというべきである。しかし,本件議決については,A漁協の理事8名からこれらの者を除外した6名の過半数に当たる4名が出席し,その全員が賛成したのであるから,特別の利害関係を有する理事を除いてもなお議決要件を満たすということができる。なお,水産業協同組合法37条1項によれば,本件議決につき定足数が満たされていることは明らかである。
そうすると,本件議決を無効とすべき瑕疵があるとはいえない。
(3) そして,本件規則が効力を生じていないものであっても,本件規則に基づく貸付けと同様の目的を有する貸付けをするに当たり漁業協同組合の理事会の議決を要するものとすることは合理的なものであるところ,上記のとおり,本件議決を無効とすべき瑕疵があるとはいえないことからすれば,結局,Dは,本件貸付けを合理的なものと認められる手続によって行ったものということができ,この点に関し,本件支出負担行為等が町長の裁量権の範囲を逸脱してされたものということはできない。
5 以上と異なる見解に立って,本件支出負担行為等が町長の裁量権の範囲を逸脱してされたものであって違法であり,Dは損害賠償責任を負うとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人が他に主張する本件支出負担行為等の違法事由の有無やこれに関連して損害が東洋町に発生しているといえるか否か等について,更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

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