ビジネスホンのリース
中小企業が、ビジネスホンのリース契約を締結する場合、「営業のために若しくは営業として締結するもの」(法26条1号)にあたる場合があり、消費者ではないことから特定商取引法の一般消費者としての保護は受けられないことが原則となります。
しかし、通達では、契約の相手方の属性や事業や法人である場合に一律に適用除外とするものではありませんが、その射程距離はあまり長いものではありません。
例えば、事業にも使われるけれども、個人用・家庭用に使用している場合には適用されます。
「営業のために若しくは営業として」にあたるか否かは、契約書上の購入者が誰かといった形式にとらわれず、購入者の商品使用の実態や営業の種類、規模、事業者の勧誘方法を考慮して実質的に判断されるものとされます。
名古屋高判平成19年11月19日判タ1270号433ページ
Xは個人で印刷画工を業として行っていた者であるが,平成15年12月8日と同16年6月1日の2回にわたり,通信機器の販売会社Aの社員Bを通じてリース会社Yとの間で通信機器(「タイコーソルボーネ」という事務所用電話の主装置及び電話機)のリース契約を締結した(ただし,各契約の内容及び2回目の契約の存否について争いがある)。各契約書にはクーリングオフに関する条項の記載がなかった。XはYに対し,同18年5月26日までの間,リース料として合計55万4400円を支払ったが,同年7月7日到達の内容証明郵便によりクーリングオフの権利を行使し,既払リース料の返還を求めた。Xの主張は,Xは個人事業者としての実態がないから特定商取引に関する法律26条による同法の適用除外には当たらないこと,BはYの代理人であり,各リース契約はBの詐欺により締結したものであるから,訴状により各リース契約を取り消すなどというものである。
これに対しYは,Xは個人事業者であるから同法の適用はないこと(したがって,クーリングオフはできない),各リース契約によれば,リース物件の瑕疵やXの錯誤についてYは責任を負わず,Xと売主Aとの間で解決することとされていることを主張し,Xの請求を争った。
第1審(名古屋地判平19.6.20)は,Xがデザイン業を営む個人事業者であったとしてクーリングオフを認めず,Bの詐欺について,BがYの代理人であったとか,Y担当者がその事情を知っていたなどとは認められないとしてXの請求を棄却した。
Xが控訴したところ,本件控訴審判決は,YがAにリース契約の勧誘及び締結の取次を継続的に行わせていたことからYを法2条1項1号の役務提供事業者であって,各契約は同法上の訪問販売に当たるとした上,Xは一人で印刷画工を行い,その規模は零細で,契約後,所轄税務署に廃業届を提出したこと,事務所は借家の一室に過ぎず,家庭用電話機1台あれば十分であったこと,Xはパソコンを使えず,リース物件は印刷画工の仕事との関連性も必要性も極めて低いことなどから,各リース契約はXの営業のために若しくは営業として締結されたものであるとは認められないとしてクーリングオフの適用を認め,第1審判決を取り消してXの請求を全部認容した。
法26条1項1号は,「売買契約又は役務提供契約で,その申込みをした者が営業のために若しくは営業として提供するもの又は購入者若しくは役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結するものに係る販売又は役務の提供」について,クーリングオフ等を定めた規定を適用しないものとしている。本件において,第1審判決は,Xが事業者であったことを理由にクーリングオフ規定の適用を否定したが,本件控訴審判決は,法26条1項1号の法文に忠実に沿って事実認定を行い,各契約が「営業のために若しくは営業として締結」されたものではないとしてクーリングオフを認めた。本判決は,クーリングオフ規定の適用除外が争われる事案において,契約締結の目的が営業のために若しくは営業として行われたか否かを事業の実態などから詳細に検討すベきことを示したもの。