厳しすぎるグーグル検索の削除基準

最高裁平成28年1月31日は、グーグルに対して、自己の逮捕歴に関する記事の検索結果を削除する求めた裁判の決定で、「プライバシーの保護が情報を公表する価値より明らかに優越する場合に限って削除できる」との規範を示しました。しかし,過去の前科公表事件の最高裁判決との整合性がとれておらず、前科は国民が最も知られたくない代表的なプライバシーであることに照らすと、それを上回る「明らかに優越する公共的価値」というのはいったい何なのでしょうか。

 

最近、食べログなので、「おいしくなかった」「店員の対応が横柄」「仕事が遅い」と一方的観点からの名誉棄損的表現が目立つ中で、かかる名誉棄損的表現を爆発的に流通させるグーグルの流通過程に載せることに、これほど厳しい基準を載せるのは、「忘れられる権利」という一方もあるものの、他方で、グーグルに対する事業活動上の名誉毀損についてもハードルが上がらないか懸念が高まります。

 

これは,事前抑制禁止の法理などと比べても実質的に厳しい基準で、どうしてネット検索がここまで公共的に保護に位置付けられるのか全く疑問といわざるを得ません。欧州連合が明文化している忘れられる権利にも触れていませんし、ネットには否定的情報の方が蓄積されやすいという特性など,最高裁決定は審理不尽であり、国民的討議を深めていく時期ではなく、むしろ最高裁が少数派や健全な商道徳を守れないのであれば立法でグーグルの検索機能を規制する立法をなすべきであると考えます。最近グーグルのポリシーをみましたが違法であっても、リベンジポルノ、特定宗教の押し付けなど、事業活動をしていくうえでほとんど役に立たないポリシーばかりです。「保育園落ちた、死ね」というように個人の発信力が高まる一方で、少数零細企業の場合、コメントの承認性がない場合、グーグルのコメント欄の罵詈雑言が残り続けることになりかねません。しかし、新聞でも濃縮版には配慮しているのに、それに配慮しなかったグーグルの常識なるものを既存メディアはもっと攻撃すべきではないかと思います。

 

しかし、刑事では、リンクを貼るだけで幇助になったり共犯になったりするのに、全く平仄がとれていないご都合主義としかいえず、しかも過去の犯罪報道に高い公共的価値は見出すことは認めず、かかる判例は射程距離を短くとったり、あてはめで工夫する必要が出てきそうです。

 

1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
(1) 抗告人は,児童買春をしたとの被疑事実に基づき,平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関
する法律違反の容疑で平成23年11月に逮捕され,同年12月に同法違反の罪により罰金刑に処せられた。抗告人が上記容疑で逮捕された事実(以下「本件事実」
という。)は逮捕当日に報道され,その内容の全部又は一部がインターネット上のウェブサイトの電子掲示板に多数回書き込まれた。
(2) 相手方は,利用者の求めに応じてインターネット上のウェブサイトを検索し,ウェブサイトを識別するための符号であるURLを検索結果として当該利用者
に提供することを業として行う者(以下「検索事業者」という。)である。
相手方から上記のとおり検索結果の提供を受ける利用者が,抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件として検索すると,当該利用者に対し,原々決定の
引用する仮処分決定別紙検索結果一覧記載のウェブサイトにつき,URL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋(以下「URL等情報」と総称する。)が提供され
るが,この中には,本件事実等が書き込まれたウェブサイトのURL等情報(以下「本件検索結果」という。)が含まれる。
2 本件は,抗告人が,相手方に対し,人格権ないし人格的利益に基づき,本件検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てをした事案である。
3(1) 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となるというべきである(最高裁昭和52年(オ)第323号同56年
4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁,最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁,最高裁平成1
3年(オ)第851号,同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決・裁判集民事207号243頁,最高裁平成12年(受)第1335号同15年3
月14日第二小法廷判決・民集57巻3号229頁,最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)。他方,検索事業者は,インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し,同複製を基にした索引を作成するなどして情報を
整理し,利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものであるが,この情報の収集,整理及び提供はプログラムによ
り自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから,検索結果
の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。また,検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インター
ネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割
を果たしている。そして,検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針に沿った一貫性を有する表
現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。
以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると,検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに
属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該UR
L等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事
等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と
当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明
らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,抗告人は,本件検索結果に含まれるURLで識別されるウェブサイトに本件事実の全部又は一部を含む記事等が掲載されているとして本件検索結果の削除を求めているところ,児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁
止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合
の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。
以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわ
れることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。
4 抗告人の申立てを却下した原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官
木内道祥 裁判官 山崎敏充)
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