養育費不払い―大局的議論を(朝日新聞9月10日社説に反論する)

裁判で勝訴したのに、あるいは公証役場で正式な約束をかわしたのに、相手が履行しない。転職して連絡を絶ったり、財産を隠したりする――。この問題に対処するため法整備案(中間試案)を法制審議会の部会がまとめた。しかし、違和感があるのは養育費の不払いという「感情的」な議論に結びつけて、かえって弱者である債務整理や中小零細企業など保護が必要な債務者への強制執行を強める法政策という矛盾である。

例えば、労働問題で200万円の支払いを命じられても中小零細の会社の場合、「だったら破産します」といって、裁判を起こしても民事上の権利を実現することができないことがある。

朝日新聞は、「とりわけ関心が高いのは、離婚後の子どもの養育費の不払い問題」と指摘するが、法改正の実態は債権者に有利である以上、金融機関など債権者となることが多い人に有利になるという視点が欠けている。母子世帯の6割が「一度も受け取っていない」と答えたというが、一定額を超えると母子扶養手当が打ち切られるところ養育費も所得認定の対象であるので、母子家庭には「独り立ち」が必要なのではないか。母子家庭出身の弁護士としてそう思う。

他方、面会交流をしている母子世帯は3割にも満たないという調査結果もある。朝日新聞は、「厳しい経済環境におかれた子は進学もままならず、貧困の再生産を招く。社会の分断を防ぐためにも早急な手当てが必要」とする。しかし、こどもとのコミュニケーションもとれず、教育方針について話し合う機会もないまま、カネだけ出してくれ、というのは都合が良すぎるのではないか。

また、こどもの視点でも最近23歳は要扶養者に該当しないという審判をもらったが、私は高等教育はすべて奨学金で賄い、大学のころは成績が優秀であったので学費自体が免除された。

離婚は、誰も望んで離婚したがるわけではなく、いわば「悪魔のくじ引き」と一緒だ。そして、別々に暮らせば生活費が非効率になるのは当然である。その非効率を誰が引き受けるかだ。

試案は、離婚に伴う問題と債務整理の弱者側であるものを区別せずにしている点で欠陥がある。特に、悪質な金貸し業者からの請求に罰則を伴う制裁など論外といわざるを得まい。

養育費の問題は、すべてを当事者間の問題として押しつけると解決が難しい。日弁連が提言した新算定表はその意味で妥当ではない。毎月20万円や30万円の養育費を支払っている人もいるのが実態で、高額所得者の元妻は不労所得に甘んじているケースもある。本来的には、離婚直後に関しては母子扶養手当を拡充する政策論の方が妥当である。現在、母子扶養手当は働くお母さんにこそ厳しい制度になっており本末転倒である。

養育費にかんしては女性側の視点が強調されるが手取り20万円の男性の場合、例えば、養育費が8万円の場合、家賃6万円、光熱費等1万円、食費3万円、保険料1万円、小遣い1万円で貯蓄もままならないことが分かる。そもそも男性に対する養育費の分担のさせ方に問題があるのではないか。

裁判の結果というが、それよりも上位法に「人間の尊厳」というものがあり、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するとの認識にたって立法作業を進める必要がある。

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