海外子会社の所得にタックスヘイブン対策税法を適用したことが違法とされた例
海外子会社の所得にタックスヘイブン(租税回避地)対策税制を適用した課税処分をめぐり、デンソーが処分取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)は平成29年10月24日、デンソー側の主張を認めた。名古屋国税局による約12億円の課税を認めた二審判決を破棄。デンソーの逆転勝訴が確定した。
タックスヘイブン対策税制は、税率が低い国・地域にある子会社の主な業務が「株式の保有」にとどまる場合、日本の親会社の所得に合算して課税する。子会社に事業実体があるなど一定の要件を満たせば適用が除外される。訴訟ではシンガポールにあるデンソー子会社が適用除外にあたるかが争点になっていた。
デンソー側は「子会社は東南アジア地域を統括する事業を担っている」と主張。国側は「子会社の業務は株式保有に含まれる機能にすぎない」としていた。
同小法廷は判決理由で「子会社の地域統括業務は調達や財務、物流改善など多岐にわたる。域内グループ会社の効率化やコスト低減を目的としており、相当の規模と実体を有していた」と指摘した。
要するに、株式の保有のみの場合、日本の親会社の所得に合算されるのですが、デンソーの海外事業が、単なる株式保有にとどまらない事業をしていたかが争点となりました。最高裁は、法制の制度趣旨を述べつつ、海外で事業を行っている会社に適用することは弊害がある。最高裁は地域統括事業を行っていたと指摘し、単なる株式の保有とするという事実認定を否定しました。税法については、解釈と事実認定ですが、本件では、双方が問題になっているといえそうです。
5 (1) 措置法66条の6第1項は,内国法人が,法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い,当該子会社に所得を留保することにより,我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから,このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として,一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し,その課税対象留保金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである。 しかし,特定外国子会社等であっても,独立企業としての実体を備え,その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで上記の取扱いを及ぼすとすれば,我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがあることから,同条4項は,事業基準等の適用除外要件が全て満たされる場合には同条1項の規定を適用しないこととしている。 (2)ア 措置法66条の6第4項は,同条3項にいう株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき事業基準を満たさないとしているところ,株式を保有する者は,利益配当請求権等の自益権や株主総会の議決権等の共益権を行使することができるほか,保有に係る株式の運用として売買差益等を得ることが可能であり,それゆえ,他の会社に係る議決権の過半数の株式を保有する特定外国子会社等は,上記の株主権の行使を通じて,当該会社の経営を支配し,これを管理することができる。 しかし,他の会社の株式を保有する特定外国子会社等が,当該会社を統括し管理するための活動として事業方針の策定や業務執行の管理,調整等に係る業務を行う場合,このような業務は,通常,当該会社の業務の合理化,効率化等を通じてその収益性の向上を図ることを直接の目的として,その内容も上記のとおり幅広い範囲に及び,これによって当該会社を含む一定の範囲に属する会社を統括していくものである。 そうであるから,その結果として当該会社の配当額の増加や資産価値の上昇に資することがあるとしても,株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的,内容,機能等を有するものというべきであって,上記の業務が株式の保有に係る事業に包含されその一部を構成すると解するのは相当ではない。 そして,A各事業年度において,Aの行っていた地域統括業務は,地域企画,調達,財務,材料技術,人事,情報システム及び物流改善という多岐にわたる業務から成り,豪亜地域における地域統括会社として,集中生産・相互補完体制を強化し,各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図ることを目的とするものということができるのであって,個々の業務につき対価を得て行われていたことも併せ考慮すると,上記の地域統括業務が株主権の行使や株式の運用に関連する業務等であるということはできない。 イ また,措置法66条の6第4項が株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき事業基準を満たさないとした趣旨は,株式の保有に係る事業はその性質上我が国においても十分に行い得るものであり,タックス・ヘイブンに所在して行うことについて税負担の軽減以外に積極的な経済合理性を見いだし難いことにある。この点,Aの行っていた地域統括業務は,地域経済圏の存在を踏まえて域内グループ会社の業務の合理化,効率化を目的とするものであって,当該地域において事業活動をする積極的な経済合理性を有することが否定できないから,これが株式の保有に係る事業に含まれると解することは上記規定の趣旨とも整合しない。 以上によれば,A各事業年度において,Aの行っていた地域統括業務は,措置法66条の6第3項にいう株式の保有に係る事業に含まれるものということはできない。 (3)ア 次に,措置法66条の6第3項及び4項にいう主たる事業は,特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり,特定外国子会社等が複数の事業を営んでいるときは,当該特定外国子会社等におけるそれぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額,事業活動に要する使用人の数,事務所,店舗,工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当である。 イ これを本件についてみると,Aは,豪亜地域における地域統括会社として,域内グループ会社の業務の合理化,効率化を図ることを目的として,個々の業務につき対価を得つつ,地域企画,調達,財務,材料技術,人事,情報システム,物流改善という多岐にわたる地域統括業務を有機的に関連するものとして域内グループ会社に提供していたものである。そして,A各事業年度において,地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上高は収入金額の約85%に上っており,所得金額では保有株式の受取配当の占める割合が8,9割であったものの,その配当収入の中には地域統括業務によって域内グループ会社全体に原価率が低減した結果生じた利益が相当程度反映されていたものであり,本件現地事務所で勤務する従業員の多くが地域統括業務に従事し,Aの保有する有形固定資産の大半が地域統括業務に供されていたものである。 以上を総合的に勘案すれば,Aの行っていた地域統括業務は,相当の規模と実体を有するものであり,受取配当の所得金額に占める割合が高いことを踏まえても,事業活動として大きな比重を占めていたということができ,A各事業年度においては,地域統括業務が措置法66条の6第3項及び4項にいうAの主たる事業であったと認めるのが相当である。よって,Aは,A各事業年度において事業基準を満たすといえる。 (4) そして,前記3(2)の事実関係等によれば,A各事業年度において,Aは本店所在地国であるシンガポールにおいて地域統括業務に係る事業を行うのに必要と認められる固定施設を有していたこと,株主総会及び取締役会の開催,役員の職務執行並びに会計帳簿の作成及び保管がいずれも同国において行われるなど,Aが本店所在地国において事業の管理,支配及び運営を自ら行っていたこと,地域統括業務に係る事業は,措置法66条の6第4項1号に掲げる事業のいずれにも該当せず,Aはその事業を主としてシンガポールにおいて行っていたことがそれぞれ認められるから,Aは,前記2(2)②から④までの各要件に係る基準を満たすといえる。 したがって,上告人は,AにつきA各事業年度において適用除外要件を全て満たし,本件各事業年度において措置法66条の6第1項の適用が除外されるから,事業基準を満たさないことを理由に同項を適用してされた本件各処分(ただし,平成21年3月期の法人税の再更正処分については確定申告に係る所得の金額を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金の額を下回る部分)はいずれも違法というべきである。