バニラエアとクレーマーの炎上騒動
格安航空会社として運行しているLCCのバニラエアに車椅子の乗客が搭乗する際、タラップカーを自分で登るようにいわれたと気勢をあげてNHKなどが報道した。
しかし、他方で、以下のような事実も認められた。
・バニラエアでは関西=奄美間では、車椅子利用者をアシストする設備をおいていないので、合理的理由により予約を拒んでいる。
・東京を経由したり、レガシィエアラインを使えば問題はなかったように思われる。
・問題なく搭乗できたにもかかわらずテレビにアピールして謝罪をさせている。
・最初から現実的悪意があったのではないか。
・同行者はなぜおんぶなどをしなかったのか、付添人として無意味である。
私にもこんな経験がある。ルフトハンザドイツ航空のプレミアムエコノミーで出張中、出てきた料理が蕎麦だったが、私は蕎麦アレルギーを持っているので機内料理が食べられないということがあった。CAに困難なことだとは思うが、なんとかならないか、といったところ、ルフトハンザの応えはこうだった。
・ルフトハンザでは、特別なミールを提供するサービスを提供している。
・締め切りは3日前である。
・今回は申出がない。
・よって、あなたが悪い。
というような対応であった。
以前のコラムで世の中が神様だらけになると息苦しいと書いた記憶があるが、障害者は差別されないだけであって、「神様になれるわけではない」のであって、事前の伝えると搭乗を断られる可能性も織り込んでいたと言わざるを得ない。
障害者差別解消法が施行されて1年以上たつが、同法は、障害の有無にかかわらず、個人が力を十分発揮できる社会を目指している。「合理的配慮」といって、過重な負担にならない範囲で、障害者の行動の妨げを取り除く努力を行政や企業に義務付けた。
今回のバニラ・エア問題で最も問われるべきは、同社が乗客の立場に立って行動したかだ。欧米ではおんぶをして、搭乗させる介護者が付き添っていることもあるが、介護者と一緒にどうしてこういう努力をしなかったのだろうか。人間らしさという観点から考えれば、複数名で協力すれば人力でタラップをあげることもできたと思う。問題は、問題に直面するときに人間らしく問題を解決することができるか、ではないだろうか。
バニラ・エアの社内規定は、客を車椅子ごと抱えてタラップを上り下りする行為を禁じていたという。ならば乗客にも協力を求めておぶって搭乗させればよいだけではないだろうか。
もっとも、LCCは設備投資や人件費を削減して運行するビジネスモデルである。バニラエアは、この問題が報じられるや、椅子型になる担架を導入し、その後、階段昇降機も設置したというが、奄美空港に設置する合理性があるかどうかというと、経営者の私が思うところ拠点空港でもない奄美に配置するメリットはないと思われる。結果的にマスコミ・パッシングを恐れたもので対応は、コストはかかるものの適正であると思う。しかし、障害者差別解消法は合理的なものはやむを得ず、奄美のように1日に数えるほどのフライトのために昇降機を設置するというのは合理性はないとも考えられる。
男性への非難には、「LCCではなく、設備の整った航空会社を利用すればいい」というものがある。だが、運賃が安いから障害者はあきらめよ、という理屈は通らない、と毎日新聞は指摘するが、これは無人駅で降りられないことは差別だ、といっていることと同じであり、ヒューマニティの観点から判断すべきであるし、レガシィキャリアもLCCが困っていたら昇降機を貸してあげるくらいのおおらかさは同じ空港で働く仲間として必要ではないか。バニラエアもこうした会社の垣根を越えた人間関係の構築などをしていなかったツケが廻ってきたようにも思われる。
男性が、車椅子の利用をあらかじめ航空会社に伝えていなかったことも批判されている。交通機関が、支援の準備をするため事前の連絡を求めるのは一般的だからだ。
その点、両者に考えさせられることがあったと思われるが、一方的に、障害者サイドが悪いとはいえないと思われる。