プライバシーと実名報道
最近、司法取引が導入されるということで、談合などがあり得る業者を中心に、司法取引のセミナーも行っている。
だが、組織と組織の犯罪の場合、その実態の解明が難しいから、刑を問わないというベネフィットを与えて情報を得るという捜査手法というわけだ。
話しは変わるが、日大の宮川選手が実名で報道され実名で記者会見をしていた。短期的な戦術としては、担当した多摩地区にある法律事務所の弁護士の風林火山のような戦術はあたったといえるだろう。風向きを一気に、宮川が悪いか否かから、日大の内田及びコーチが悪いか否かに変えさせてしまったからだ。
だが、宮川選手が傷害罪に該当する恐れがある行為をしたことは否定できない。やくざの場合は指示があったか否かを思い浮かべてもほとんど同情する人はいないだろう。長期的にみた場合、社会公共の関心事となった日大ラグビー問題の当事者の動静ということで、社会公共の利益を明らかに優越するプライバシーがあるとはいえないので、グーグルから削除することも難しい。グーグル事件の当事者は中村選手というサッカー選手であったが、男児のわいせつ画像をアップしたということで逮捕、略式罰金命令を受けて事実上、サッカー業界から追放されてしまったのである。しかし、漫画村のアップロード行為やアニチューブのアップロード行為、はたまたもてはやされているユーチューバーのやっていることもたいていは違法行為だ。
「るろうに剣心」事件といい、微罪を社会公共の利害としてしまうと、特に中村氏のようにサッカー選手は20代が重要であるのに、事実上引退させられてしまい、「更生させる権利」を警察とそれに談合しているマスコミが奪っているとさえいえるだろう。
日大の問題では、井上ヘッドコーチに週刊文春がゲイビデオ出演疑惑を報じたが明らかな名誉毀損と云わざるを得ない。こういう池に落ちた犬をさらに沈めようというのは、我が国の健全な社会通念と異なる。実名で告発した宮川選手や伊藤詩織氏、そして警察とグーグルにより構成の権利を奪われた中村氏。後二者はそれぞれロンドンとタイに出国していて日本を捨ててしまった。そして、日大問題では宮川氏の実名告発を潔しとして被害者側選手に対する美貌中傷がツイッターで起きているのだ、とマスコミは伝えている。
日大が組織として、従業員や理事者を守るのは本来の組織のあるべき姿であり全く問題がない。宮川選手についても、日大は別に突き放そうとしたわけではないが、やはり組織の論理から選手一人のせいにするのが合理的であるので、そうなる可能性が高まった時点で、宮川選手は日大の庇護下から出て多摩の法律事務所に依頼をして弁護士の手に委ねたのである。こうしたことは労務をやっていてめずらしいことでもなんでもない。
テレビ朝日も、記者は原則実名である。公務員ですら公務執行中の公務員にプライバシーはないとするのが最高裁の判例である。テレビ朝日の進優子記者が福田事務次官のセクハラ疑惑について自社では報道できないと断られたので、怒りに燃えて週刊新潮に持ち込んだのである。眺めていると、テレビ朝日やフジテレビ、NHKは自社の社員を匿名で報道している。TOKIOのメンバー報道によく表れているのではないか。
それだけに、巨大組織、それは、日大に限られないがそういう場合は匿名、警察が典型的である。警察は強盗で指名手配されても匿名なのである。これに対して、20代のサッカー選手が、男児のわいせつ画像をアップしたら実名ということで組織も脆弱で守るどころか解雇しかできない。みなさんであれば、家族を守りつつ働くためにどちらの組織で働きたいだろうか。そのうえで問うが、長期的にみて宮川選手の行為は彼にとってプラスであったか、むしろ短期的な奇襲にすぎないのではないか。そんな思いをプライバシー、匿名報道、司法取引をキーワードにセミナーの準備をしていて禁じ得なかった。