日本版司法取引(捜査協力型)の導入と企業向書誌セミナー
刑事事件の経験豊富な弁護士による日本版司法取引書誌セミナー
他人の犯罪を明かす見返りに、容疑者や被告の刑事処分を軽くする日本版「司法取引」が今日から導入されました。
ただ、対象は限定的で、現在のところは証拠の入手が困難な贈収賄、談合、脱税、粉飾決算などの経済刑法が対象となっています。
もっとも、そのこともあり、企業の従業員が取調べを受ける際、今までは弁護士がレクチャーをしたり、弁護士が代理人となったりしているなど、事実上、組織のカルチャーによって、従業員の護り方も異なっていました。これからは、弁護士が同席して司法取引をするという場面も想定されることになるでしょう。その意味で、従業員を守ったり、あるいは、上層部との利害対立が生じたりする恐れもありますね。
さて、今回は、贈収賄や脱税、談合、粉飾決算などの経済刑法が対象となります。贈収賄は今日日少ないでしょうが、脱税、談合、粉飾決算はあり得るところでしょう。
組織犯罪処罰法(いわゆる共謀罪)の成立で、治安維持法並みの処罰範囲の広がりを我が国が見せる中で、どのように自社及び従業員などの利益を擁護するのか、など関心もあるところです。また、虚偽の供述の利益による冤罪リスクもありますが、政治的判断が迫られることが、司法の局面でも増えてくるといえそうです。
「被告が裁判で収賄容疑を全面否認しているニュースを見て、申し訳ない気持ちになった。だって賄賂なんて、本当に渡してないんですから」「取り調べに徹底抗戦していたら、関係のない創業家の家の塀にずらりと捜索の車が並び、私的な交遊まで調べられ始めて……。結局最後は検事が言うままに、贈賄を認める調書に署名しました」
上場企業幹部の証言である。真相は分からない。だが平成に入り捜査を受けた側からの、東京地検特捜部に対するこうした批判の声が目立つようになった。内容はほぼ同じだ。「自分たちが描いたストーリーで突っ走る」「強引な調べで一方的な調書を作る」
しかし自分たちの激しい思い込みにストーリーを落とし込んだ結果、平成20年代に入るとこんな項目ばかりになる。「郵便不正事件で元厚生労働省局長に無罪判決」「大阪地検特捜部で証拠品改ざん」「小沢一郎氏の強制起訴をめぐり、東京地検が虚偽の捜査報告書を作成」などの「検察」による世紀の犯罪が発生しました。
なぜ、結論ありきに陥ってしまったのか。だが検察の凋落(ちょうらく)は内部要因だけが理由ではなかった。「悪弊が積み重なっても表面化せず、後に一気に噴き出したのは、検察が刑事司法という閉じられた世界に安住していられたからだ」ともいえる。
しかし、弁護士、裁判官、検察官の分断が比較的組織的に進むについて、「司法ムラ」のもたれ合いが通用しなくなったというのが経緯だ。
特に、刑事事件の裁判に市民が参加する裁判員裁判。検察が起訴をしなかった事件について、市民による起訴を可能にした強制起訴。新しく導入された制度によって、刑事司法の世界に「市民の常識」が流れ込んだ。
市民の目は、取り調べで作られた調書より、法廷でのやり取りや客観証拠を重視する裁判への移行を促す。法務・検察は組織を上げて司法改革の推進に力を入れたが、皮肉なことにそれが自らを衰退させた。
相次ぐ検察の不祥事を受け、取り調べに偏らない捜査を目指す新たな刑事司法の改革も進んだ。目玉は、他人の犯罪の捜査に協力する見返りに自分の罪を軽くしてもらう日本版司法取引。導入は今年6月に迫る。うまく使うことができれば供述や調書に頼ったこれまでの捜査から脱皮できるわけなのである。
5月に東京都内で開かれた、司法取引のコンサルティングを手掛ける怪しげなセミナー。しかし、参加者は定員100人を超え、土木、建設、IT(情報技術)、製造業など幅広い業種の法務担当者が参加した。土木、建設、IT土建、製造業はこれらのターゲットになりやすいことの現れといえます。
当事務所にも、「企業からの相談は施行が近づくにつれ増えている」といえます。不正事案を想定したシミュレーションの検討や危機対応・調査マニュアルを作成する企業のご案内もしています。
企業側の関心が高い背景には、詐欺や薬物などの組織犯罪に加え、贈収賄や脱税、談合、粉飾決算など幅広い企業犯罪が司法取引の対象になったことがある。米国のように自白と引き換えに罪を軽減させる「自己負罪型」は認めていません。ですので、他人の事件捜査へ協力する代わりに罪を減免させる「捜査公判協力型」のみ採用したのが特徴だ。
「粉飾決算は取締役からの指示でした」。ある上場企業の経理担当部長が検察官に重い口を開いた。検察側は部長の起訴を見送る一方、部長の供述に基づき取締役を起訴した――。司法取引はこうした捜査が可能になる。
▽価格カルテルに関わった同業他社の役員の犯罪について証言する代わりに起訴を見送る▽脱税事件での求刑を軽減し、脱税資金を政治家への賄賂に充てていたことを証言させる――などが企業犯罪として具体的に想定される。
社内や取引先などで違法行為があった場合、企業は事実関係を把握して、司法取引に応じるべきかなどを判断する必要がある。司法取引を持ちかけられた場合、どう把握し対応するかも課題だ。まずは刑事事件と企業法務に詳しい弁護士に相談することが大事だが、大手法律事務所は刑事事件を全く知らない。大手法律事務所は頼りにならないとすらいえる。
検察の運用はハードルが高そうだ。こちらからもちかけても乗ってこないということだ。なぜなら、検察や警察の捜査能力の高さ、罪から逃れたい一心で虚偽供述で他人を無実の罪に陥れる恐れなどがあるからだ。乗ってくるために、客観証拠を示すコツも必要になってくるだろう。検察当局は司法取引で得られる供述に、裏付け証拠が十分にあるかを吟味した上で応じるかを判断することを捜査現場に求めている。当面は経済事犯を中心に検討するとされる。
司法取引で証拠や供述を得にくい犯罪の解明に役立つことが期待される一方で、安易に利用されると、会社幹部の共謀が簡単に認められることにもなりかねません。
捜査手法が変わる刑事司法の転換点だけに、適正運用が定着のカギを握りそうだ。
「犯罪捜査規範」では、警察が関与する場合、警察本部長の指揮を受けることとしたほか、司法取引に関する供述は取り調べと区別して求めることを明記するなど、警察との司法取引に慣れている弁護士は普段から警察と交渉する弁護士などかなり限られるでしょう。
司法取引は容疑者や被告が共犯者らの犯罪を明かした場合、検察官が起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりする仕組み。贈収賄や詐欺、薬物銃器犯罪などが対象となる。今後、詐欺罪や薬物も含まれているので、対象が広がることも考えられます。司法取引についての法律相談は、名古屋駅ヒラソル法律事務所まで。