ハマキョウレックス事件、長澤事件判決と均衡待遇
浜松市の物流会社「ハマキョウレックス」事件の最高裁判決が出されました。いわゆる丸子警報器事件と同じく均衡待遇や信義則が問題になった事案でした。
契約書は、同じ仕事をしている正社員と待遇に差があるのは、労働契約法が禁じる「不合理な格差」にあたると訴えた訴訟の判決が6月1日、最高裁第二小法廷でありました。
山本庸幸裁判長は、正社員に支給されている無事故手当や通勤手当などを契約社員に支給しないのは不合理だと判断し、会社側が支払うよう命じた二審判決を支持した。最高裁がこの争点について判断を示したのは初めてです。
原告は同社で契約社員として働くトラック運転手。正社員に支給されている無事故手当▽作業手当▽給食手当▽住宅手当▽皆勤手当▽通勤手当―などの支払いを求めて訴訟を起こした。
一審・大津地裁彦根支部は、通勤手当について「交通費の実費の補充で、違いがあるのは不合理だ」と認定。二審・大阪高裁はさらに、無事故手当と作業手当、給食手当を支払わないのは不合理だと判断し、双方が上告していた。
この日の第二小法廷判決は二審が「不合理」と認めた四つの手当に加え、「皆勤手当」についても正社員に支給しながら契約手当に支給しないのは「不合理」と判断したものです。
原告が皆勤手当の支給要件に該当するかを審理させるため、大阪高裁に差し戻した。一方、住宅手当については、正社員と契約社員の間に転勤の有無など差があることをふまえ、契約社員に支給しないのは「不合理といえない」と原告の訴えを退けた。
また、横浜市の運送会社「長沢運輸」事件で定年退職後に再雇用された嘱託社員のトラック運転手3人が、給与が下がったのは「不合理な格差」にあたるとして訴えた訴訟の判決も同日、同じ第二小法廷で言い渡された。
判決は、出勤を奨励する精勤手当と、算定の際に精勤手当の額が影響する超勤手当について、正社員と嘱託社員に支給額の差があるのは「不合理」と判断。具体的な賠償額を審理するため、審理を二審・東京高裁に差し戻した。
ただ、それ以外の住宅手当や家族手当などについては、正社員と再雇用された嘱託社員に差があるのは「不合理ではない」として原告側の訴えを退けた。
判決を受け、ハマキョウレックスは「判決の内容については真摯(しんし)に受け止めます。今後の対応については、弁護士と判決文の内容を精査して対応していきたい」、長沢運輸は「今回の最高裁判決は、精勤手当以外は会社の主張が全面的に認められたと受け止めています。精勤手当の不支給を違法とされた部分については、判決の内容を精査して、差し戻し審での対応を検討します」とのコメントをそれぞれ出した。
以下のとおり、ハマキョウレックス事件は、均衡待遇が論点となったもので給与が細分化されて、各手当の支給をしないことの適法性が問題となった事例です。長澤運輸事件はそこまでではありませんが、同じ論点です。
(1) 労働契約法20条は,有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契 約労働者」という。)の労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と 無期労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては,当該労 働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務 の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮し て,不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は,有期契約労働者については,無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働 者」という。)と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図る ため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすること を禁止したものである。
そして,同条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があ り得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の 事情(以下「職務の内容等」という。)を考慮して,その相違が不合理と認められ るものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。
(2) 本件確認請求及び本件差額賃金請求について ア 本件確認請求及び本件差額賃金請求は,有期契約労働者と無期契約労働者と の労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合,当該有期契約労働者の労働 条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるという解釈 を前提とするものである。 イ 労働契約法20条が有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違は 「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることや,その趣旨 が有期契約労働者の公正な処遇を図ることにあること等に照らせば,同条の規定は 私法上の効力を有するものと解するのが相当であり,有期労働契約のうち同条に違 反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるものと解される。
もっとも,同条は,有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の 違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり,文言上も,両者の労働条件の 相違が同条に違反する場合に,当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である 無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。
そうすると,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反 する場合であっても,同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対 象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが 相当である。
また,上告人においては,正社員に適用される就業規則である本件正社員就業規則及び本件正社員給与規程と,契約社員に適用される就業規則である本件契約社員 就業規則とが,別個独立のものとして作成されていること等にも鑑みれば,両者の 労働条件の相違が同条に違反する場合に,本件正社員就業規則又は本件正社員給与 規程の定めが契約社員である被上告人に適用されることとなると解することは,就 業規則の合理的な解釈としても困難である。
ウ 以上によれば,仮に本件賃金等に係る相違が労働契約法20条に違反すると しても,被上告人の本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものと なるものではないから,被上告人が,本件賃金等に関し,正社員と同一の権利を有 する地位にあることの確認を求める本件確認請求は理由がなく,また,同一の権利 を有する地位にあることを前提とする本件差額賃金請求も理由がない。
(3) 本件損害賠償請求について ア 労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が期間の 定めがあることにより相違していることを前提としているから,両者の労働条件が 相違しているというだけで同条を適用することはできない。一方,期間の定めがあ ることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は,労働条件の相違が不合 理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるものという ことができる。
そうすると,同条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者 と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたもので あることをいうものと解するのが相当である。 これを本件についてみると,本件諸手当に係る労働条件の相違は,契約社員と正 社員とでそれぞれ異なる就業規則が適用されることにより生じているものであるこ とに鑑みれば,当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるというこ とができる。したがって,契約社員と正社員の本件諸手当に係る労働条件は,同条 にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができ る。 イ 次に,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件 の相違が,職務の内容等を考慮して不合理と認められるものであってはならないと しているところ,所論は,同条にいう「不合理と認められるもの」とは合理的でな いものと同義であると解すべき旨をいう。しかしながら,同条が「不合理と認めら れるものであってはならない」と規定していることに照らせば,同条は飽くまでも 労働条件の相違が不合理と評価されるか否かを問題とするものと解することが文理 に沿うものといえる。また,同条は,職務の内容等が異なる場合であっても,その 違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定である ところ,両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては,労 使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。 したがって,同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無 期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであ ることをいうと解するのが相当である。 そして,両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴う ものであるから,当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当 該相違が同条に違反することを主張する者が,当該相違が不合理であるとの評価を 妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が,それぞれ主張立証責任を負うものと解される。 ウ 上記イで述べたところを踏まえて,本件諸手当のうち住宅手当及び皆勤手当 に係る相違が職務の内容等を考慮して不合理と認められるものに当たるか否かにつ いて検討する。
(ア) 本件では,契約社員である被上告人の労働条件と,被上告人と同じく上告 人の彦根支店においてトラック運転手(乗務員)として勤務している正社員の労働 条件との相違が労働契約法20条に違反するか否かが争われているところ,前記第 1の2(6)の事実関係等に照らせば,両者の職務の内容に違いはないが,職務の内 容及び配置の変更の範囲に関しては,正社員は,出向を含む全国規模の広域異動の 可能性があるほか,等級役職制度が設けられており,職務遂行能力に見合う等級役 職への格付けを通じて,将来,上告人の中核を担う人材として登用される可能性が あるのに対し,契約社員は,就業場所の変更や出向は予定されておらず,将来,そ のような人材として登用されることも予定されていないという違いがあるというこ とができる。
(イ) 上告人においては,正社員に対してのみ所定の住宅手当を支給することと されている。この住宅手当は,従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給さ れるものと解されるところ,契約社員については就業場所の変更が予定されていな いのに対し,正社員については,転居を伴う配転が予定されているため,契約社員 と比較して住宅に要する費用が多額となり得る。 したがって,正社員に対して上記の住宅手当を支給する一方で,契約社員に対し てこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができ るものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当た らないと解するのが相当である。
(ウ) 上告人においては,正社員である乗務員励する趣旨で支給されるものであると解されるところ,上告人の乗務員について は,契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから,出勤する者を確保すること の必要性については,職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。 また,上記の必要性は,当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や,上告人の中 核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえな い。そして,本件労働契約及び本件契約社員就業規則によれば,契約社員について は,上告人の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるとされている が,昇給しないことが原則である上,皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事 情もうかがわれない。 したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の皆勤手当を支給する一 方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理である と評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認めら れるものに当たると解するのが相当である。
(4) 以上によれば,本件確認請求及び本件差額賃金請求の全部並びに本件損害 賠償請求のうち住宅手当に係る部分を棄却すべきものとした原審の判断は,いずれ も正当として是認することができる。これらの点に関する論旨は採用することがで きない。 他方,本件損害賠償請求のうち,労働契約法20条が適用されることとなる平成 25年4月1日以降の皆勤手当に係る部分を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
この点に関する論旨は 理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。 なお,その余の請求に関する附帯上告については,附帯上告受理申立て理由が附 帯上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
第3 上告代理人上野勝ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを 除く。)について 1 原審は,前記第1の2の事実関係等の下において,契約社員と正社員の無事 – 10 – 故手当,作業手当,給食手当及び通勤手当(以下「本件無事故手当等」という。) に係る相違は,期間の定めがあることにより生じた相違であり,かつ,不合理と認 められるものに当たるから,労働契約法20条が適用されることとなる平成25年 4月1日以降に上告人がこのような相違を設けていることは不法行為に当たるとし て,本件損害賠償請求の一部を認容すべきものとした。 2(1) 契約社員と正社員の本件諸手当に係る労働条件が,労働契約法20条に いう期間の定めがあることにより相違していると解されることは,前記第2の2 (3)アで述べたとおりである。したがって,両者の間で本件諸手当のうち本件無事 故手当等に相違があることが同条に違反するか否かは,当該相違が同条にいう不合 理と認められるものに当たるか否かによることとなる。 (2)ア 上告人においては,正社員である乗務員に対してのみ,所定の無事故手 当を支給することとされている。この無事故手当は,優良ドライバーの育成や安全 な輸送による顧客の信頼の獲得を目的として支給されるものであると解されるとこ ろ,上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならないか ら,安全運転及び事故防止の必要性については,職務の内容によって両者の間に差 異が生ずるものではない。また,上記の必要性は,当該労働者が将来転勤や出向を する可能性や,上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事 情により異なるものではない。加えて,無事故手当に相違を設けることが不合理で あるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。 したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の無事故手当を支給する 一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であ ると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認め られるものに当たると解するのが相当である。
イ 本件正社員給与規程は,特殊作業に携わる正社員に対して月額1万円から2 万円までの範囲内で作業手当を支給する旨を定めているが,当該作業手当の支給対 象となる特殊作業の内容について具体的に定めていないから,これに – 11 – 業所の判断に委ねる趣旨であると解される。そして,被上告人が勤務する彦根支店 では,正社員に対して作業手当として一律に月額1万円が支給されている。 上記の作業手当は,特定の作業を行った対価として支給されるものであり,作業 そのものを金銭的に評価して支給される性質の賃金であると解される。しかるに, 上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならない。また, 職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることによって,行った作業に対する金銭 的評価が異なることになるものではない。加えて,作業手当に相違を設けることが 不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。 したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の作業手当を一律に支給 する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理 であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と 認められるものに当たると解するのが相当である。
ウ 上告人においては,正社員に対してのみ,所定の給食手当を支給することと されている。この給食手当は,従業員の食事に係る補助として支給されるものであ るから,勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給することがその 趣旨にかなうものである。しかるに,上告人の乗務員については,契約社員と正社 員の職務の内容は異ならない上,勤務形態に違いがあるなどといった事情はうかが われない。また,職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは,勤務時間中に 食事を取ることの必要性やその程度とは関係がない。加えて,給食手当に相違を設 けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。 したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の給食手当を支給する一 方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理である と評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認めら れるものに当たると解するのが相当である。 エ 上告人においては,平成25年12月以前は,契約社員である被上告人に対 して月額3000円の通勤手当が支給されていたが,被上告人と交通手段及び通勤距離が同じ正社員に対しては月額5000円の通勤手当を支給することとされてい た。この通勤手当は,通勤に要する交通費を補塡する趣旨で支給されるものである ところ,労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるも のではない。
また,職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは,通勤に要す る費用の多寡とは直接関連するものではない。加えて,通勤手当に差違を設けるこ とが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。
したがって,正社員と契約社員である被上告人との間で上記の通勤手当の金額が 異なるという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものである から,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当 である。 (3) 上記(1)及び(2)で検討したところによれば,本件無事故手当等に相違があ ることは,いずれも労働契約法20条に違反すると解される。なお,所論は,同条 は私法上の効力のない訓示規定であるから不法行為は成立しない旨をいうが,同条 が私法上の効力を有する規定であると解すべきであることは,前記第2の2(2)イ で述べたとおりである。
(4) 以上によれば,労働契約法20条が適用されることとなる平成25年4月 1日以降において,上告人が本件無事故手当等に相違を設けていたことが不法行為 に当たるとして,同日以降の本件無事故手当等に係る差額相当額の支払を求める限 度で本件損害賠償請求を認容すべきものとした原審の判断は,正当として是認する ことができる。論旨は採用することができない。 第4 結論 以上のとおりであるから,原判決中,被上告人の平成25年4月1日以降の皆勤 手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し,被上告人が皆勤手当の支給要件を 満たしているか否か等について更に審理を尽くさせるため同部分につき本件を原審 に差し戻すとともに,上告人の上告及び被上告人のその余の附帯上告を棄却する。