法曹養成と大学利権。
朝日新聞の記事に,「法曹養成,破れた理想」とあります。
しかし,この記事には,現場の弁護士としては,朝日新聞の希望が叶わなかっただけではないか,目的,目標,手段の区別がついていないのではないかと考えられます。
目的は,社会の隅々まで法の支配を及ぼすというものです。その目標としては,①良質な法曹を輩出する仕組みを作ること,②弁護士に対してアクセスしやすくすること,③弁護士にも保険制度を導入することなど金銭的負担を軽減する仕組みを作ること-ではないか,と思います。
法科大学院制度というのは,①の手段にすぎないのではないか,と思います。どうも,法曹が毎年3000人合格することができることを強みにして法科大学院制度を創設したというような形となっており,本末転倒といえるのではないでしょうか。
記事の作り方として違和感を覚えるのは,つぶれそうな法科大学院の関係者が「理想=3000人」と結びつけて声高な主張をしているという印象を受けます。
しかしながら,司法制度改革は,社会の隅々まで法の支配をおよぼすというものです。
そのためには,弁護士の人口を増やしたとしても,理想を達成することはできないでしょう。
次に,弁護士に依頼したいときにアクセスすることができる弁護士がいないという問題がありました。しかし,ゼロワン地域は解消され地域の隅々まで弁護士がいるという状態になっており人手の問題や適正配置の問題は解消されたと考えられます。
最後に,弁護士として活動すると経済的合理性がない,あるいは依頼者の正当の利益を守るものとはいえないケースです。正直なところ,朝日新聞などのマスメディアが,「司法制度改革の理念=3000人」と一方的に思い込んでしまうのは,こうした問題に取り組む弁護士が少ないという問題意識があるのではないかと思います。
しかしながら,経済的合理性のない事件についての依頼者の方のための弁護士保険制度などの創設がなければ,実際それに取り組むのは難しいでしょう。弁護士に対して仕組みもなしに手弁当での活動を朝日新聞が押し付けるというのは違うのではないか,と思います。朝日の社説は,「国際ビジネス,福祉,地方自治,犯罪者の社会復帰支援」とありますが,朝日新聞はあまり実態を知らないのではないかと思います。国際ビジネスは渉外事務所が多くやっていますし,福祉面では市長申立の後見をやっている弁護士もいますし,犯罪者の社会復帰支援については手弁当で保護司をやっている弁護士もいます。地方自治というのは意味不明ですが,公的な会議に弁護士がメンバーで入っていることも多いのです。それらがどれくらい「新しい分野」であるのかと思います。
また,主観的に請求権がどうにも成り立たないケースです。弁護士はあくまでも法的請求を通して依頼者の正当な利益を擁護することが使命です。したがって,法的請求が成り立たないという場合は,これは弁護士業務の範囲外と考えることができるではないでしょうか。
「夢,破れた」-というようなタイトルです。しかし,案件を処理してくると,怪しい新聞記者さんが近寄ってくることがあります。新聞記者というのは,それ自体は収益に何ら結び付かないのですが,広告収入や購読者からの収入で成り立っているので,私が,上で述べた2つの視点を新聞記者さんはあまり意識されないのではないかと思います。
朝日新聞はこの問題について,もう少し論理的に整理し直した方が良いのではないか,と考えます。